前回お伝えしましたように消費税の計算方法には落とし穴があります。その結果、「課税売上割合」(前回のコラムを参照してください)が小さい医療機関のような事業者は、自らが仕入等に付随して支払った消費税額のほとんどを自院で負担しなければならない状況にあります。
だからといって、公共性の高い医療に消費税を課税するわけにもいきません。そこで医療機関の消費税負担を緩和するため、厚生労働省は平成元年の消費税導入時(3%)と平成9年の税率引上げ時(5%)に、診療報酬の引き上げで対応してきました。いわゆる「損税」に相当するだけ診療報酬を引き上げたので、医療機関の負担は増えませんよという理屈です。(日本医師会の試算によれば、それでも医療機関の負担は完全には解消されていないようですが。)
なお、平成26年4月に行われた消費税率8%への引き上げ時についても基本的には同様の対応がなされています。
薬の仕入や諸経費などの経常的な費用は毎年そう大きく変動することはありませんので、基本診療料等の引き上げにより、これらの費用に係る消費税の負担はある程度カバーできたということが言えるでしょう。
しかし前回のコラムでも取り上げましたが、臨時的な設備投資に係る消費税の負担はこの対応ではカバーすることができません。この点について、厚生労働省の発表によりますと、今回の8%への増税時には「個別項目」の診療報酬を補完的に上乗せすることで対応したとしています。
具体的には、まず消費税増税に対応する診療報酬引き上げ額を全体として確保した上で、基本診療料等の引き上げを行い、「最後に残った財源を補完的に個別項目に上乗せ」とありました。このようなやり方で各診療機関の設備投資に係る消費税負担をカバーできているとは思えませんが、これが「現時点で取り得る最前の策」とのことです。
「診療報酬の引き上げで調整」などという間接的な、ある意味ごまかしのような方法で対応せずとも簡単にこの問題を解決する方法があります。
消費税の損税問題が起こるのは消費税の計算方法に問題があるからです。課税売上割合が低くても、支払った諸経費に係る消費税額が還付されるような計算方法に変更すれば簡単に解決できます。
具体的には、日本医師会が過去から要望してきているような、「保険診療に消費税を課税する。ただし税率は0%とする」という方法があります。こうすれば、保険診療は「課税売上」になるので「課税売上割合」は100%となり、支払った諸経費に係る消費税の還付を受けることができるようになります。しかも税率は0%ですので患者負担も発生しません。
これとは別に、日本歯科医師会などが主張している「保険診療は非課税のまま医療機関の消費税を還付する」という方法もあります。どちらの方法がベターなのかは何とも言えませんが、消費税の損税問題の抜本的解決に向けて各団体が連携していっていただきたいと思います。
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昭和44年11月29日生。大阪府堺市出身。神戸市外国語大学中国学科を卒業後、特殊鋼の専門商社に入社する。そこで香港現地法人立ち上げに関わった経験から中小企業の財務会計に興味を持ち税理士資格取得を志す。その後会計事務所勤務を経て平成20年4月に酒井税理士事務所を開業する。“税に関する情報をわかりやすい言葉でお伝えします!"をモットーに、情報を必要とする方に有益な情報を届けることに注力し、現在では多数メディアにも掲載され活躍されておられます。