みなさまもすでにご存じのことと思いますが、平成27年1月1日から相続税の基礎控除額が大幅に引き下げられます。医師のみなさまの場合には従来から相続税対策について意識をされていた方も少なくないとは思いますが、改正後は今まで以上に相続税というリスクのことをまじめに考え、備えておく必要があります。
一口に相続税対策といってもいろいろなやり方があるのですが、今回は公表されている調査事例のなかから興味深い失敗事例をご紹介したいと思います。
とある大手企業の役員である山本一郎さん(仮名)。体調を崩して入院することになりました。仕事一本でここまでやってきた一郎さん。それなりの財産をお持ちですが不動産や株式等には一切手を出さずすべて預金として資産形成をされてきました。
最初はすぐに退院できると思っていたのですが思いのほか入院が長引きます。奥さんの花子さん(仮名)は最悪のケースを覚悟せざるを得なくなりました。そこでまず考えたのが相続税のこと。一郎さん名義の預金のままでは相続税を逃れることができないと考え、多額の現金を引き出して花子さん名義の貸金庫や自宅に隠しました。「現金のまま隠した」というところがポイントです。花子さん名義の預金口座に入れてしまうと「どこからこんな大金を手に入れたのですか?」とつっこまれてしまいますからね。
花子さんのすごいのは、その後現金を引き出した形跡を隠すために一郎さん名義の口座を解約しその通帳を破棄してしまったところです。このあたりなかなか素人とは思えない気のまわり方です。
その後治療の甲斐なく一郎さんはお亡くなりになったのですが、花子さんは一郎さん名義の財産がほとんど残っていなかったので相続税の申告をしませんでした。
これで終わっていれば良かったのでしょうが税務署もそれほど甘くはありません。その後花子さんのところに税務調査が入り相続財産隠しの実態が明らかになってしまいます。今回の事例では申告漏れの財産が約3億2,600万円(!)見つかり、追徴税額は約9,000万円だったそうです。
なぜ花子さんの隠ぺい工作はこうもあっけなく破綻してしまったのでしょうか?亡くなられた時点では一郎さん名義の財産はほとんどなく、花子さんの通帳にも不自然なお金の流れは見られなかったというのに。
実は税務署には、自営業者や医師の先生方のように確定申告をする方についてはもちろん確定申告をしないサラリーマンでも一定以上の給与所得がある方については、その毎年の所得のデータが蓄積されています。ですからそのデータから「一郎さんの相続財産がこんなに少ないはずがない!」ということが容易に想像できてしまうのです。
「頭隠して尻隠さず」ではありませんが、「収入」を把握されている以上その結果としての「財産」を単純に隠しただけでは税務署の目を逃れることはできません。相続税対策をお考えのみなさんは早いうちから合法的な対策を準備するようにしましょう。
住所: | 大阪市西区南堀江1-2-6 サムティ南堀江ビル8階 |
---|---|
HP: | http://www.sakai-tax.jp/ |
昭和44年11月29日生。大阪府堺市出身。神戸市外国語大学中国学科を卒業後、特殊鋼の専門商社に入社する。そこで香港現地法人立ち上げに関わった経験から中小企業の財務会計に興味を持ち税理士資格取得を志す。その後会計事務所勤務を経て平成20年4月に酒井税理士事務所を開業する。“税に関する情報をわかりやすい言葉でお伝えします!"をモットーに、情報を必要とする方に有益な情報を届けることに注力し、現在では多数メディアにも掲載され活躍されておられます。